2008年05月16日

媒体組成研究 第1課題


- 『複製技術の時代における芸術作品』における「アウラ」 -


このレポートでは用語として「アウラ」を取り上げる。教科書中に登場するページは、67、69、70、71、77、87、102、109(以上、本文)、114、 115(以上、原注)。
まず、手元にある語学辞典で「アウラ」を調べてみる。『デイリーコンサイス国語辞典 第4版』(三省堂 2004年)では、「オーラ aura 1.(人の)独特の雰囲気. 2.霊気(-の光)」とあり、1.が本文献の意味に近いと思われる。次に、この文献が出版されたフランス語を調べてみると、「aura 名 女 1.[心霊]アウラ(霊験者だけに見えるという物体からの発光) 2.[文](人が漂わす)後光、威光. 」(『ディコ仏和辞典』白水社 2005年)とある。国語辞典とほぼ同じ内容であるが、心霊と関係があるのが興味を引く。英語もauraは心霊と関係があるから、語源はそこから来たものだろうか。最後に、ベンヤミンの母国語であるドイツ語辞典を調べてみると、「Aura f. 微妙な雰囲気; [医]前駆症候.」(『新訂独和辞典』博友社 1984年)とあって、前者よりあまり面白みのない語釈が記されている。


詳しく調べるために図書館を訪れて(横浜中央図書館)、参考図書にあたってみた。思想・哲学関係の事典で「アウラ」を見出し語として掲げているのは次の二つであった。
・『コンサイス20世紀思想事典』(三省堂 1997)
・『岩波哲学思想事典』(岩波書店 1998)
まず、書名通り簡易な説明がある前者の事典によると、ギリシャ語の語源の説明から始まって、中世の宗教伝説に用いられた語であること、その後オカルティズムの研究対象になり精神医学用語としても用いられたことが記された後に、ベンヤミンの文献に関連して「人間と事物の交渉と全体性を意味する表現」との説明があった。
後者の岩波では、ずばり本文献を中心にアウラという語を説明する。複製可能芸術の登場によりアウラ(今ここで、という一回限りの現象)が消失するが、複製芸術としての映画の可能性に着目し、モンタージュ手法による現実への参入、ロシア(ソビエト連邦の誤りか)における映画への観客や素人の参加(『戦艦ポチョムキン』か)、これによる芸術の政治化および表現と政治の結合(によるファシズムへの対抗)がなされる、という説明があった。
まとめてみると、人と事物との一回限りの交渉が生み出すアウラという現象は複製可能芸術の登場によって消失したが、映画という複製可能芸術の表現を積極的に考えると、ソビエト映画における試みにより制作者と観客の境界が消失し、その結果表現と政治が結合することによって、ファシズムへの対抗手段となりうる、ということになるがこの論旨に沿って、アウラという語を中心に本文献を検証する。


まず、III.でアウラという語が初出する。「オリジナルが、いま、ここに在るという事実が、その真正性の概念を形成」し、ある事物の真正性は「それが物質的に存続していること、それが歴史の証人となっていること」でこれが事物の権威や重みであるから、これらを「アウラという概念に総括して」「複製技術時代の芸術作品において滅びゆくものは」アウラであるとベンヤミンは主張する。
また、次の章では知覚メディアの変化に表出される社会変動をアウラの凋落として把握し、その社会的諸条件を大衆運動の高まりと関連づけ、大衆があらゆる事象を身近に映像のかたちで捉えようとする欲求を指摘し、つまり「アウラを崩壊させることは『世界における平等への感覚』を大いに発達させた現代の知覚の特徴」であると述べる。


さらに次の章では、芸術作品のアウラ的あり方が宗教的儀式の礼拝において必要不可欠なものであること、その後の「世俗的な美の礼拝」の時代を経て、複製技術時代には芸術作品の社会的機能は変革され、芸術は儀式の代わりに別の実践、政治を根拠とするようになる、と主張する。
その後の章で、芸術作品の礼拝的価値と展示価値、19世紀における礼拝的価値の凋落、展示価値としての映画に論点が移った後、XI.で「人間が機械装置を通じて表出されることによって、人間の自己疎外は、きわめて生産的に利用されることになった」とベンヤミンは書く。俳優は目の前にいない大衆によって演技をコントロールされ、この映画資本における観客崇拝が大衆の心性を腐敗させファシズムに利用されていると述べる。


最終的にベンヤミンは以下のように主張する。ファシズムは所有関係を維持しつつ、大衆に表現の機会を与える。その帰結として政治は耽美主義に行き着き、その頂点が戦争である。これは新たな芸術のための芸術の完成であり、アウラが消失し、複製技術に変革された現代の知覚は「自身の絶滅を美的な享楽として体験できるほどにまでなっている」と。


otoryoshi@gmail.com

Posted by phonon at 2008年05月16日 21:39
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コメント

はじめまして。論文、興味深く拝見させて頂きました。勉強になります。横浜中央図書館は、私も利用しており希有な共通点に驚きです。ご挨拶が遅くなりましたが、宜しくお願いします。

Posted by bookworm at 2008年05月16日 23:18

bookwormさん、こんにちは。

横浜中央図書館を利用されていますか。僕も大体そこに行くのですが、行き帰りで遭遇する競馬好きのおじさんおばさんがうざいですよね。

今後もよろしくお願いします。

Posted by 音量子 at 2008年05月17日 09:36
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