卒業制作を作る前に3

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卒業制作を作る前に1
卒業制作を作る前に2

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(3)自分を基準にアドバイスするタイプ

平面デザイン系教員に多いかも。

私が教務課の時にこんなことがありました。

卒制展での12号館地下展示室は、通常教室では展示出来ない大型作品の展示希望が出てきます。
展示室は教務課の管轄なので、ある程度作品のチェックを教務でやるんです。
基本的には「水は使っちゃダメだよ」てな展示室利用に関する部分をチェックするのが主なんだけど、その他の部分で気になることも私は言ってました。
「これ、今から作って間に合うの?」とか「作る場所あるの?」とか「これ、絶対に立たないよね?」とか(笑)

いろいろあちこちと調整してせっかくOKを出してあげたのに、どうみても時間不足な作品だったり、予想通り立たなかったりすることがたまにあって・・・あれは担当者としてすごく悲しいんです・・。


で、ある学科の学生さんが、木をイメージし、枝の各先にモニタ(当時はもちろんブラウン管)を乗せ(合計6台)、映像を流し、全てがクルクル回転する・・という作品を出してきたんですよ。
木の高さは250cm。

見た瞬間に「えーと・・・これ無理でしょ?」と言ってしまいました。
ブラウン管モニタ6台の重量と回転に耐えられる土台・幹・枝の造作、動力系を制作しなくちゃいけない。その知識があるのか。
そして、モニタが回転するってことは映像・電源ケーブルも一緒にずっと回転するわけで、それが何を意味するかわかってるのか。
これまでに作ったことがあるのならいいんだけど、それもない様子。

すると学生さんからこう返ってきたんです。

でも教授は作れるって言ってましたよ」と。

いやいや(苦笑)
作れるか作れないかっていえば、作れるに決まってるよ。
土台の作成だって、回転するケーブルの問題だって解決策はあるわさ。
「じゃ、先生にどういう技術を使えば回転する先に電気と映像を流すことができるか、土台の制作時間、モニタのリース料とかお金がいくらぐらいかかるかも聞いて、もう一度教務に来て」とその日はそこで終わりに。

数日後、学生が教務課カウンターにやってきました。
「先生から『うーん、150万ぐらい?』と軽く言われて・・回転するのはあきらめます・・・モニタも減らします・・」

この学生さんの指導教員は、自分がいつものデザインの仕事をするように、お金がたんまりあって、制作は全て外注するのを前提に指導してたようです。


この話を聞いて、2種類の感想があることでしょう。



1つは「もっと学生の気持ちになって教授は指導するべき」。

もうひとつは「「なぜ自分が作りたいものを簡単にあきらめるのか?」。


私はどちらかといえば後者です。

150万は確かに学生さんにとって大金だけど、計画立ててりゃ頑張れない金額でもない。
「150万で自分とは関係ないものを買え」って言ってるんじゃなくて、「自分が作りたいもの」のためなんだし。
150万円以上かけて卒制作ってる人もいっぱいいます。
また、アメリカ留学資金が欲しくて、欽ちゃんの仮装大賞に出場し優勝した上杉裕世さんという皆さんの先輩もいます。
自分の作品のために必死こいてアルバイトをやる必要もなく、美大生には公募って手もあるんだよね。
いろいろと「手段」はあるわけで。


そもそも4年生が夏以降卒業制作に入ることは入学した地点でわかってることであって、自分の作りたいものを決めていれば、それまでにある程度お金をためることや、自分のやりたいことを調べたりテクニックを磨くこともできたはず。
自分の計画性の無さ、無知のせいで本当に作りたい作品をあきらめるのはなんか惜しくないっすか?


一見、このタイプの教授は学生のことを考えてない先生のように思われてしまいますが、逆に学生を「作家」としてちゃんと扱っているとも考えられるのです。
自分が仕事でそうしてるように、学生にもそれを求める。

自分で全部作ることが卒制(仕事)じゃない。
いいモノを作りたくても自分でモノを作れないなら外注すればいい。
それでお金がかかるというのなら、それを自分でなんとかすればいい。

それが「仕事」であり、懇切丁寧に教授に教えてもらうことも必要だけど、大学はそういうことを「学びとる場」のように私は思っています。
高校じゃないんだから。


指導教員がこのタイプの学生さんは、どのレベルのものを教授が求めてるのか早く察知することです。
そして早めに行動することですね。



え?
で、さっきの学生さんはどうなったかって?


結局、この学生さんの作品は、モニタが椅子の上に1台載ってるだけの作品になってました。
周りは大型作品ばかりの卒展12号館地下展示室に、です。
この結論がわかってたら「教室でやれ!」と言ってたはずです(涙)
担当者として悲しすぎて忘れられない話。

映像系作品は、中身の映像を作るのに手一杯になっちゃって、当初の予定より周辺の造作に時間をかけられなくなることが多いです。
卒制でこの手のものを考えてる人は、早めに時間とお金と人手を確保しとくべきだよ。

投稿者:ichiro : 2008年10月06日 04:45

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