花柄の指先

FOR STUDENT & ARTIST


「アートやデザインなんて、むなしい」


そう思ってたときが僕にもあった。
今でこそ、アートやデザインを信じているけれど、
そういえば僕という人間は最初からこんなやからじゃぁなかったんだ。
美大受験に踏み切るまで、ずっと揺れてたと言ってもいいかもしれない。
政治や医療に比べて芸術はなんて力ないものだろう、と嘆いて
馬鹿にしたりもしてた。


高2か3の夏休みのことだ。
未来への不安も解消できないまま、
母方の祖父母の家へ遊びに行った。

10くらい歳のはなれた、可愛いいとこの女の子がいて、
ピアノを弾いたりおままごとをしたりして、ときどき遊んでいた。

そのときはトランプをしていたんだっけ。

その子のお母さんがふと
「オトギちゃんは絵が上手なんだから、
いっしょにお絵描きすればいいのに」
とおっしゃった。

すると、
「じゃあいっしょにツメをつくろう!」
とそのコが提案した。
ツメをつくる、というのはつまり、
「ネイルアートをしたい!」ということで
最近のブームらしかった。

それでね、
そのコはそのコの、
僕は僕のツメをつくることにした。

ちっちゃな机の上に、色鉛筆を広げて、
向き合ってちっちゃな絵を描いた。

もちろん、本格的なセットなんて何も無い。
いちまいいちまい、
自由帳を切り取り、
色鉛筆でお花やリボンを描いて、
セロハンテープでくっつけるんだ。


途中から、そのコが
僕の描いているほうの花をじっと見つめるようになった。
そして、段々その瞳がかがやきだしたのに気づいた。
嬉しくて笑いそうなのをこらえながら、

「あげようか?」

と言うと

「ほしい!!」
と言って、喜んでつけだした。
一刻も早く、すべての指先につけたいようだった。
僕もそのお手伝いをした。

すべてつけ終わると、手の甲を頬の近くに持ち上げて

にっ

とこちらに笑いかけた。
まるで、
「いいでしょ」
と自慢するように、楽しそうに微笑んでいた。

「かわいいね」
と言うと、嬉しそうにくるくる回って、
お母さんのところに見せに行った。

僕はそのとき
なぜかしらないけど胸が熱くなるのを感じた。

紙に色鉛筆で描いた、たくさんの 花 花 花。
どんな絵画にも及ばない、ささやかなラクガキ。
それをあんな笑顔で喜んでくれる。
それだけのものが誰かを笑顔にできる。
僕の描いたありふれた、ただの花が。


芸術のむなしさを問われるとき、
あのときの、あどけない笑顔を つくりものの可愛い爪を 思い出す。


オトギ

投稿者:fantasy : 2011年07月15日 22:13

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