オアシス

FOR WORLD

 東京に来てから、カフェをさがすのが好きになった。


緑エプロンの某チェーン店のファンなんだけど、
最近は個人経営のカフェにひたっている。

大通りから少し外れると、
(まるで秘密基地みたいに)洒落たお店がなんの前触れもなくあったりして素敵なのだ。


疲れると、ひとりで行く。


 ドアを開き、まず壁を見る。
たいていは、センスのいいんだか悪いんだかわからない絵が飾ってある。
1・2組の先客がいて、人生論を語っていたり、なんともない世間話をささやきあったりしている。
アンティーク調のこだわりを感じる椅子に腰掛けると、
店員のおじさんやおばさんが、
マニュアルをくしゃっと丸めたような話し方でお冷やをもってきてくれる。
珈琲を頼む。
僕はブラックが飲めないので、砂糖をひとさじ入れて珈琲を飲む。
そして「あ、まただ」と思う。
好きだなあと思うカフェにはいつもクラシックがかかっている。
ヴァイオリンやピアノの優雅な音を「すてきだなあ、また聴きたい」と思うんだけど、
お店をでるとすっかりそんなことは忘れてしまう。

 三くちくらい珈琲を飲んだころ、
エスキース帳を開いて、
 ああだめだ、これも違う。
とか思いながら、課題のためのスケッチをする。
それは時々つながらない言葉の羅列になる。
人の話し声がBGMのように遠いところで鳴っている。
ボールペンの素っ気ない黒い線でエスキース帳が埋まっていく。

 そうこうしていると、段々からだの中の毒素がぬけきったようにすっきりする。
気づくと時間は2時間くらい経っている。

 僕は2時間という時間と、おいしい珈琲に350円を払ってお店をあとにする。
カフェに入るとき、どんなに気分が最悪でも、カフェをでるころには笑顔でこう言うことができる。

「ごちそうさまでした。」


オトギ

投稿者:fantasy : 2011年05月10日 20:50

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