白い夜

FOR WORLD


急に目の前に広がる時間がふにゃりと崩れて、つかめなくなった。
いけないな。
どうにも一人暮らしのほうが性に合うみたい。
実家に帰ると、日本昔話みたいな祖母があれこれと世話を焼いてくれるので、
僕はなんにもしなくてもどこにもいかなくても生きていける、ので、
ただでさえ丸まった背筋がどんどん丸まっていく。
怖いな。
怖くて無理やり用事をこじつけて外に飛び出す。

「雪が見たくて」

ビニール傘ひとつつかんで、白い雪を見上げてあるくんだ。
冬の田畑は殺風景で嫌いだ。
(そういえば東京で一人暮らしをしてからというもの、僕は金色の田畑というものを見れていない。)
真っ白で、誰も歩いてない道のなかを、青いローファーがぱきぱき踏みつぶしていく音だけがする。
一人だなと思う。ああやっと一人だなと。
ご飯をつくってくれるひととか、つらいとき電話したいひととか、プレゼントをくれるひととか、
優しいひとがどんなにまわりにいても、やっぱり僕は一人なんだと。
そう思うと安心する。誰にも共感してもらえないかもしれないけど、安心する。
なんとかしなくちゃと思える。一人でも。誰かが助けてくれたとしても、一人でなんとかしなくちゃ。

息を吐くと白い。見上げても白い。振り返っても白い。
全部しらないことのように白くて、いくらでも歩いていけそうなんだ。


オトギ

投稿者:fantasy : 2012年12月28日 22:36

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