真夏の死骸

FOR STUDENT

高校2年の夏
つくりかけの作品ばかり部屋に転がっていた。

描きかけの油絵
削ったままのスタイロ
封をあけ、固まりかけた紙粘土
現像待ちの写真
撮りためた映像

何かを完成させなくてはと思っていた。
何かに認められなくてはと思っていた。

期待されることが重荷になる瞬間にいつも怯えていた。
冷えた手で心臓を撫でられている様な不快感。
なんだかどうでもよくなって家を飛び出し、
ぼんやりした頭であぜ道を歩いていた記憶はまだ生々しい。

将来のこととか学校のこととか
ありふれたことに、いつの間にか悩む立場になっていた。
なんてバカなんだろうと思っていた。
鬱陶しいくらい世界は綺麗だった。
うんざりするくらい僕は自由だった。

よく「あのときは馬鹿だった」と振り返る人がいるけど
あの時の僕は、自分が馬鹿だと言う事に悲しいくらい気付いてた。

どうしようもないときは、ほんとにどうしようもない
僕たちは脆い。
強くも弱くもなく、ただ脆い。

あのとき。
なにもつくれないことが辛かった。
なんだかもう、このまま死ぬんじゃないかってくらい泣いた記憶がある。
それでも、なにも生み出すことのない世界なんて、
どんなに優しい恋人がいたって、生きていく意味もない。

どうしても捨てられないものなんて、残念ながらたったひとつだけだ。


オトギ

投稿者:fantasy : 2011年08月08日 22:52

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