リアルな美大の日常を
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介護等体験7.0日目
今日で介護等体験が終わりました。
これからまだまだ、レポートだの文集だの現代GPのための原稿だの展示会のパネル制作だの山ほどやることはあるのですが、ここでひといきいれないと。
明日はお昼まで寝てやるんだーい。
気が張っていたせいか、実習中、疲れているのに夜遅くまで寝られず、本を読んだりお茶を飲んだりする日々でした。
当たり前なのだけど、職員さんはこれが日常なのだよなあ…
今日は、そのことをすごく考えさせられました。
今日は、1人の利用者さんと、午前中ずっとお話していました。
昨日、切り絵を一緒に作ったことを覚えてくださっていて、「あの紙はどこへやったの?あなたが作ってくれたでしょう」と朝一番に私をつかまえて聞いてくれたのです。
昨日の制作後、「これどうしようか?お部屋の壁に貼る?」とうかがったら、「ここは私のうちじゃないから勝手に貼っていいのか分からないわ」とおっしゃるので、「じゃあ私が持っておくね」としまっておきました。
棚から出して見せると、「せっかくだからあなたが持っててちょうだいよ。あなたが作ったんだから」とのこと。了解です。
が、少し経って、「たまには私にも見せてね」とおっしゃるので、うーむ、と考える。
お部屋に貼るのは気になるようだし、どうしたもんかな。あとで職員さんに相談してみよう。
とりあえずしまって、利用者さんと話す。
すると、「昨日娘が迎えに来てくれたんだけど、帰れないって断っちゃったのよ。悪いことしたわ。謝ろうと思うんだけど、手紙を書くのはどうかしら」と言われた。
もちろん、本当には娘さんが迎えに来ることはできなくて(実際、面会にはいらしたのだけど長期の入所をされている方だったのですぐに帰ることはできない)、だから手紙を書いたとしても意味がないといってしまえばそうなのだけど、ここはやっぱり手紙を書くことが大事、みたい。
ということで、一緒に文面を考えて色画用紙に書くことに。
といってもほとんど利用者さんが考えてくださったので、時折分からなくなる難しい漢字に対応しながら、お話し。
つまりは、住んでいらしたお家に帰りたい、ということなのですよね。
帰れなくてごめんね、都合がよければ一緒に帰りましょう、と下書きする手元を見ながら、切なくなる。
下書きしたあと、色画用紙に本番。きれいに書けた。字が汚くて…、なんておっしゃるのだけど、達筆だ。
で、書けたらやっぱりすぐに出したいわけで。
でも、私は利用者さんがどうやって手紙を出すのか知らないし、困ってしまった。
あいにく職員さんも忙しそうにしている。どうしたもんかなあ。
「郵便局は開いてるかしらね?」とおっしゃるので、カレンダーを見てみる。あ、今日振替休日だ。
ひとまず、「今日郵便局お休みだから今日は出せないね」と説明。
困ったわね、いつ出せるのかしら。
不安そうに、手紙を何度も音読したり、いつも持っているかばんから出したり、また入れたり。
そうこうしているうちに、お昼の時間になってしまったので、心配しながらも休憩に行く。
私としては、たくさんの利用者さんとお話しすべきなのかな、と思っていたし、職員さんのお手伝いもまったく出来なかったからとても心苦しかった。
でも、そうじゃないことがあとになって分かる。
お昼から帰ってくると、またさっきの利用者さんにつかまった。
立って話そうとなさってちょっと怖いので(杖をついていらっしゃるから)、「立ってると疲れるから座らない?」と促して座る。
そしてまた、郵便局の話が始まる。
「ついさっき、下の郵便局に行ったけど閉まってるのよ(※郵便局は実際ないのですけど)。困っちゃうわ」
「今日は振替休日だからお休みなんだよねー」
「いつになったら開くかしらね」
「どうだろう、もう年末だし、もしかしたらしばらくお休みかもしれないよ。その間に娘さんがまた来てくれるかも」
「でもこの間のこと何にも謝らないでいるのも悪いでしょう。謝っておきたいのよ」
「大丈夫だよ、娘さん分かってくれてるんじゃない?」
「でも手紙で誠意を見せておきたいのよ」
「そっかあ…そうだよね。でも郵便局開くまでどうにもならないしなあ」
「(2人で)困ったねー…」
お互い途方にくれてしまったので、少し話をそらしてみる。
娘さんの話から、なぜか利用者さんの恋愛アドバイスが始まる。笑
「あなたは器量がいいから大丈夫よ」
「なるほどね。ありがとう」
「あとはね、最初に会ったときは何にもしゃべっちゃだめなの」
「ふむふむ」
「それで、2回目に会ったときにいろいろ聞くのよ」
「はあ〜」
「そうしたら、向こうはあなたのことが気になってくるから」
「うわ、参考にします」
いや、実際参考になる…笑
話しているうちに、だんだん眠たそうになってきたので、なんとなーく話を途切れさせてみる。
でもハッと起きて、「郵便局に行かなきゃ」となってしまう。
すごく苦しい。
でも、「郵便局が開くまで大事にお手紙しまっておけば?」と言って、かばんの中にしまっていただく。
うーん、これで何とか大丈夫かな。
結局そのまま眠ってしまったので、そーっと離れて、レクリエーションに参加する。
レクリエーションは、頭の体操。
引き算をやったり、東京23区を言ってみたり(私の住んでいる区が最後に出てきたときはそれなりに切なかったです 笑)、春の七草を言ってみたり。
そうこうしているうちに、おやつの時間になる。私はおしぼりの配布などをお手伝い。少しお食事の介助もする。すっぱいものと甘いものがあったら、甘いものをあとに持ってくるといいと教わる。なるほど。確かにそうだ。
おやつの後は、やることがなくなってしまったので、利用者さんとおしゃべりしたり折り紙折ったり。
話しているときに、とてもよくあることなのだけど、おおっ、となることが起こった。
1人の利用者さんと話していて、出身地の話になった。
その方は、「私はここまで歩いてくるのよ。うちがすぐ近くなの」とおっしゃる。
もちろん、長期で入所されているので、うちがすぐ近くであるわけはない。
でも、へえ、そうなんだ、と聞いていると、おうちまでの説明をしてくださった。
その一言目で、どっどーんとなってしまった。
「ほら、この近くに天竜川が流れているでしょう」
…て、てんりゅうがわですって!?
思わず、頭の中の日本地図を開いてしまう。
天竜川ってどこだっけ?
すると続けて説明してくださる。
「天竜川の向こうは磐田なんだけど、その手前の○○ってところなの」
なるほど!天竜川は静岡を流れているのですね。
ここがどういったところか分からなくなってしまうのは認知症の典型的な症状なのだけど(別の利用者さんにも、何度も「気づいたらここにいたんだけどどうしたらいいの?」と聞かれ、「今日はここに泊まっていくんだよ。大丈夫、心配しないで」と答えました)、「天竜川」という思いの外壮大な響きに思わずびっくりしてしまったのでした。笑
いやあ、皆さんご自分の出身地はよく覚えていらっしゃいます。
でも、同じく認知症だった私の曾祖母は、覚えていた場所がちょっと違ったんです。
彼女は茨城で生まれ、東京に嫁いできたようです。
下町に住み、東京大空襲で娘である祖母とあの辺りを逃げまどって、旦那さんも亡くなった終戦後、ようやく自分の土地を手に入れました。
その場所のことを、よく覚えていたのです。
その後、2回引っ越しているのですが、そのことはすっかり忘れてしまっています。
つまりは、彼女の思い入れがそこにあるのだな、と。
女手ひとつで娘たちを育て上げた曾祖母。彼女の気持ちを思いました。
そんなこんなで実習の時間が終わる。
今日の担当の人に呼ばれて、ちょっとここに座って、と廊下のソファを進められた。
その職員さんは私の名前を最初から覚えてくれていて、ちょっとうれしかったのです。
4日間様子を見ていて、職員さんは皆雑用に追われていて、人手不足を痛感しました。
毎日担当の人が変わって、チームの編成も変わって、それなのに4日目の今日になってもまた新しく会う方がいるのです。
いったい、何人がこのフロアのスタッフなのだろう。何人いても足りない様子が見て取れた。
だから、名前なんてどうでもいいや、「実習生さん」「美大の方」で通じるんだから、と思っていたのだけど、でもちょっとはうれしかった。
職員さんに、「今日はAさん(手紙の方)とずっとお話してくれてたでしょう。ありがとうね」と言われる。
私は、雑用が全然出来なかったので、「何も出来ずに申し訳なかったです」と謝った。
すると職員さんが、「あのね、」と切り出す。
「みちくささんがAさんとずっと話していてくれたでしょう。Aさんは今すごく不穏で、なかなか僕たちの仕事の合間には対応しきれないんだ。
でも今日、Aさんはずっと穏やかで、それはきっとみちくささんがAさんの話を聞いてくれたからだと思う。
本当は僕たちもお話を聞いてあげたいんだけど、どうしてもそういう時間が取れない。
だから、みちくささんみたいな存在はすごくありがたいんだよ。
みんなすごく話を聞いてもらいたがってるの。だから今日は本当にありがとうございました。
先生になるにも、きっとじっくり相手と話すことが大切でしょう?」
そうか、と思った。
1人としか話せなくて、悪いことしたな、もっとたくさんの人と話せばよかった、と思っていたのだけど、1人とじっくり話す時間が、なかなか取れないんだ。
そういう時、介護の専門的な知識がない私のような人でも、話を聞くことは出来る。
少しでも不安をなくすために、手紙を書くことは出来る。
そうか、そうか。
その職員さんが、朝の申し送りのときに言っていた言葉が、強烈に頭に残っています。
「介護で儲けようなんて、無理な話なんだよ。介護は儲けるためのものじゃない」
某グッ○ウィルの某折○会長についての新聞記事を読んでの感想でした。
最後に、その職員さんから言われた言葉が、ずっしり来た。
彼は介護の手順やそのときの気持ちを言葉にすることをすごく大事にしていて、他のスタッフにも、その介護に至るまでの経緯をじっくり説明していた。
すごく、この仕事が好きな方なんだろうな、と思った。
じゃあこれで帰りますね、と利用者さんにあいさつすると、「また来てね」「気をつけて帰りなさいよ」の嵐。
私なんかでよかったら、いくらでも話し相手になってあげたい。
男の子に間違われてもいい。笑
後ろ髪を引かれる、とはこのことだった。
手紙のことも、切り絵のことも気になる。
きちんとその旨職員さんには伝えたけれど、特に手紙は心配。
もう、どうにもならないのが苦しい。
そう、そうして職員さんは私に言ったのだった。
「こういう仕事もあるんだってこと、忘れないでください」
ではまた明日。
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