猫のホテル「苦労人」@シアタートラム/から考える

今日は、猫のホテルという劇団の「苦労人」というお芝居を見てきました。


観劇は、数少ない私の趣味のひとつです。
たくさん見られるわけではありませんが、見るからには多くのものを持ち帰ろうと思っています。
このブログでも、それらの舞台から考えたことを書いていこうと思います。


猫のホテル「苦労人」@シアタートラム
(作・演出/千葉雅子 2007年4月18日〜4月29日)

1997年(初演、こまばアゴラ劇場)、2000年(再演、ザ・スズナリ)に続く再々演。
言ってしまえば、とにかく苦労した一族のお話。「人間のバカ哀しさ」を描く、というのがこの劇団のキャッチコピーですが、まさしく!
見終わったあとは、深いため息ばかりが残ります。
でも全然暗くなく、むしろさわやか。あーバカ哀しかった!とでもいいましょうか。
涙を流して笑ったのは久しぶりです。
29日まで。平日ならまだチケットがあるようです。また、当日券も出るそうなので、ぜひ行ってみてください。


さて、今日の本題はここからです。
私は今日、とにかくお尻が痛くてたまりませんでした。
よく、「いい芝居はお尻が痛いなんて感じないんだ」と言いますが、私は、それはちょっと違うなあ、と思います。
今日はとても楽しかったのに、客席が明るくなって一番に出た言葉が「お尻痛かった!」でした。お芝居への思いは大きすぎてとても言葉にはしきれず、現実的なお尻の痛さが声になってしまったのです。
お尻の痛みは現実的です(お尻の連呼で私のイメージが崩れないかと、ふと不安になる)。
それなのに、お尻の痛くなる劇場は、至る所に溢れています。その話。


まず、今日の劇場、シアタートラムは、世田谷パブリックシアターにくっついた、客席数約200の小劇場です。主劇場である世田谷パブリックシアターは、客席数約600。1997年開場。この記事の中ではまとめて「世田谷パブリックシアター」と呼びます。
この劇場は、名前を見ても分かるように公共劇場です。その中でも、その活動は全国から注目されています。
劇場以外にも稽古場や作業場を提供していたり、観劇に世田谷区民割引が適用されたり、ワークショップやレクチャー(バックステージツアーなど)がたくさんあったり、とても開かれた場所です。
私もこの劇場の取り組みや上演演目に興味を持っていたので、今日はわくわくしていました。
場内に入る前にトイレに行ったのですが、和式・洋式・車椅子用とある程度の数がそろえられており、おお!と思いました。
トイレを済ませて中に入り、席に座ろうとした時、硬そうな椅子が私の目に留まりました。そして2時間10分が経ち、さっきの声に至ります。


思い出したのが、新国立劇場の座席です。
私は中劇場と小劇場で観劇したことがあります。
中劇場で「OUR HOUSE」という作品を見た時は、椅子の硬さを感じませんでした。もちろんお芝居自体も面白かったのですが、椅子そのものも、まったく不快ではありませんでした。
椅子の硬さを感じたのは、小劇場で「十二夜」(子供のためのシェイクスピアカンパニー)を見た時です。
中劇場と小劇場では、座席の作りが違います。なかなか説明しにくいのですが、中劇場の椅子は映画館の椅子に近く(ソファのよう)、小劇場の椅子はベンチに背もたれがついてマットを敷きました、というような感じです(言ってみれば、山手線にある、朝は折りたたんでいる座席のよう)。
「十二夜」という作品はとても面白かったのに(子供のためのシェイクスピアカンパニーは、おすすめします)、お尻の痛さにすっかり負けてしまった記憶があります。
その椅子と、シアタートラムの椅子はとてもよく似ていたのです。
新国立劇場は、名前からも分かるように国が作ったものです。奥行きのある舞台が特徴で、野田秀樹などが印象深いお芝居を上演してきました。
そんな劇場が、この椅子を作るのか…、と悲しくなったものです。


では、企業が作る劇場にはどんなものがあるのでしょうか。
まずは、Bunkamura シアターコクーン。この劇場は、東急グループの1つです。
キャッチフレーズが「美しい時代へ」とのことですから、その一環として東急文化村(美術館やコンサートホールもあります)があると考えられます。
私は東急文化村の中にあるオーチャードホール(コンサートホール)とシアターコクーン(劇場)に行ったことがあります。それぞれ、バレエと演劇を見ました。
オーチャードホールは新国立劇場・中劇場と似たソファ型(と命名)の座席です。シアターコクーンは、ソファ型に近いのですが、新国立劇場・小劇場のベンチ型と同じように横一列が繋がっており、少し離れた席の人が動いてもその振動が伝わってきます。また座面も硬く、2時間の上演時間にお尻がすっかり痛くなりました。
このように、同じ企業の作った劇場でも、その規模によって座席の特徴には差があります。


比較対象として、こまばアゴラ劇場を挙げます。
この劇場の特徴はこちらのページをご覧ください。
私はここで2作品を見ました。ここは座席が固定されているわけではなく、使う劇団によって位置を変えられます。私はほぼ同じ形でどちらの作品も見ました。
座席はソファ型でもベンチ型でもなく、言ってみれば箱馬型。四角い箱の上にマットを敷いて見ます。背もたれはありませんし、膝も大きく曲げないといけません。少し体格のいい人にはつらいかな、という印象です(実際、男の人は身体を小さくして大変そうでした)。
ここで見てみての感想は、「この劇場なら、これでもいい」。もちろん姿勢は悪いしお尻も痛くなるのですが、芝居が終わってうーんと背伸びをして、外に出た時の印象が圧倒的にいいのは、こまばアゴラ劇場です。
運営の仕方や上演する劇団の質はさて置いたところに、この劇場のつきぬけた良さがあるなあ、と思います。私は、いわゆる小劇場ブームを経験したわけではありません。ですが、話に聞くあのころ(例えば第三舞台という劇団などが人気だったころ)の劇場は、こんな感じだったのかな、と思って、とてもうれしくなるのです。


もうひとつ、劇団の持っている劇場を挙げます。
劇団四季の「キャッツ」が上演されている、キャッツシアター
ここはこの公演のためだけに作られた、仮設の劇場です。座席は回るし、周りにごみはたくさんあるし、猫のための穴もいっぱい。そしてとにかく、トイレが多い。少し座席からは話が外れますが、劇場における女子トイレの存在感は、非常に大きいです。とにかく、混む。だからトイレの近い私のような女子は、休憩時間になると一目散にトイレにダッシュします。恥ずかしいですが、もぞもぞするのは嫌ですもの。
キャッツシアターが五反田に出来てすぐ、私は「キャッツ」を見に行く機会があったのですが、ダッシュしたトイレですごいものを見ました。
まず、とにかくたくさんのトイレ。圧巻です。入口と出口が分かれているので、混みあうこともありません。そして、入口には係員が立っていて、トイレが空くとすぐ「あちらへどうぞ」と誘導してくれるのです。
さすが、劇団が作った劇場。トイレの外まで列が出来ていても、大量のトイレと係員の誘導によって、あっという間にトイレの中に吸い込まれてゆくのです。私は感動しました。
話を元に戻します。キャッツシアターの座席は、ソファ型でした。二幕構成の長いミュージカルですが、お尻の痛さを感じずに見ることが出来ました。


他にも座りやすい椅子を持つ劇場として、青山劇場帝国劇場日生劇場が挙げられます。これらは全てソファ型です。
気づくのは、古めの劇場に多くソファ型の座席があるということです。ベンチ型の座席は、今風でおしゃれな印象があるのでしょうか。


以上、いくつかの劇場を、私のお尻で比較してみました。
私が何を言いたいのか。それは、「じゃあこの劇場の現状に、私は何が出来るのか?」ということです。


確かに、私よりたくさんの演劇を見て、たくさんの劇場をそのお尻で経験してきた人は山のようにいるでしょう。その人たちの経験に、私のお尻が勝てるわけはありません。
でも、私は武蔵野美術大学の芸術文化学科というところの学生で、「芸術と社会を結ぶ」ことを勉強しています。私が出来ること、すべきことは、「お尻痛いんだよねー」と文句を言うことだけではないはずです。
今まで以上に、多くの劇場をこのお尻で経験する。それもそうでしょう。ではそれ以外に、何が出来るのでしょうか。


正直に言って、分かりません。
劇場はすでにそこにあって、演劇やダンス、パフォーマンスを発表したい人はその中から自分の舞台を選びます。小さな集団だったらその時に座席の座り心地を考慮に入れることも可能でしょう。
でも、集団が大きくなれば劇場の選定はプロデューサーに任されますし、集客の面から、使える劇場も限定されます。
となると、すでにある劇場を、どう座り心地がよく、演者にも使いやすい劇場にするか、ということが問題になります。しかし劇場の改修には時間もお金もかかり、その間は公演がストップすることになります。


(最近では新橋演舞場がエスカレーター設置と女子トイレ増設のために改修をしています。今年1月に演舞場に行きましたが、トイレは確かに増設されています。ただ、入口の幅を変えていないので、狭いと感じることがあります。
また、天王洲にある銀河劇場=旧アートスフィアは、ホリプロが、オリックス株式会社から管理運営業務を受託し、新たに運営することになりました。ここでも改修工事が行われ、約半年公演が行われていません。改修後のこけら落とし公演で劇場に行きましたが、注目の椅子はソファ型で、座りにくさは感じません。ただ、女子トイレは出入口が狭く、ちょっと悲しい感じでした)


劇場を運営するのは、国から都道府県、市区町村、企業、個人まで、とにかく様々な人たちです。それをまとめてどうにかするなんて、出来るのでしょうか。
出来なかったとして、じゃあ私が入り込まなくてはいけないそのすき間は、どこなんでしょうか。
例えば、自分で劇場を経営するという方法もあります。しかしそれでは、たくさんある劇場のたった1つが変わるだけです。それで本当に意味があるのでしょうか。
それなら劇場を持つ会社に入って劇場の運営に携わればいいのでしょうか。それとも市町村、都道府県、国の組織に入って、劇場を運営すればいいのでしょうか。
どうしたって、変えられる劇場は限定されます。私のしたいことは、言ってしまえば全国の劇場をすべて、座り心地の良い椅子にして、トイレの心配をしないで済むようにして、見る方もやる方も気持ちのいい劇場にすることなのに。


「社会と芸術を結ぶ」役割を持つはずの劇場が、ただでさえ多くない観客を悲しませているのに、私はその状況に、「社会と芸術を結ぶ」ことを学んでいながらうまく働きかけることが出来ません。
ただ、とにかく、1つでも多くの劇場を経験すること。そして、そこで得た情報を、こうやって形にすること。
これを「働きかけ」と呼べるなら、私はこのお尻と一緒に、いっぱいの劇場を回ってみようと思います。


何の答えにもなっていませんが…とにかく動いて、考えて、記事にしてみようと思います。
そんなことを考えながら、電車に乗って帰ってきました。


明日からまた学校です。授業も2巡目。すべてを力にしたい。と、思います。


ではまた。

投稿者:torico : 2007年04月22日 17:56

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