リアルな美大の日常を
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エミール・ゾラ『制作』を読む(その3)
〜食事のシーンをスクラップ(下巻編)〜
主人公が転落していく下巻は食事シーンもどんよりしたムードが漂いがちです。
11章のサンドーズ宅での夕食会なんて、料理はすっごいおいしそうなのにもったいない……。
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●じつはその日、はじめて彼らは無一文になったのだった。この一週間、彼女は、とぼしい年金でなんとかやりくりしていたが、けさ、すっかり遣いはたし、もはや晩の食卓にのせるパン代もなかったのである。思い悩んだあげく、彼女は、以前ヴァンザード夫人からもらった黒い絹のドレスを質に入れようと心に決めた。
(〜中略〜)
彼女は十フラン貸してもらったが、遣うのは極力おさえ、スカンポのスープとジャガイモの煮つけをつくるだけにした。それほどこれからのことが不安でたまらなかったのである。
(第8章)
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●彼らの食事といえば、固くなったパンのかけらだけというのが常態となり、子供のジャックは栄養不良でやせ衰えていた。生活全体が全く崩壊した形で、もはや何の誇りも失ってしまった極貧の人々のように、すべて投げやりで、不潔この上なかった。
(第9章)
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●「ああ、やっと席がとれた。……で、きみは何を食べる?」
クロードは、なんでもいいという素振りをした。ところで、料理はまったくひどいものだった。柔らかくなりすぎたクールブイヨン煮の鱒(ます)、焼きすぎた固い肉、濡れ雑巾みたいな匂いのアスパラガス、といったぐあいである。
(〜中略〜)
サンドーズの注文していた二杯のコーヒーがやっと来た。だが、ギャルソンが砂糖を忘れていたので、隣の家族が残していたかけらで我慢しなければならなかった。
(第10章)
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●当日、アンリエットは献立に気を配った。彼女はいまでは料理女や召使いを雇える身分になっていた。とはいえ、自分で料理を作らないにしても、食道楽が唯一の悪徳といえる夫にたいする愛情から、たえず家事にはこと細かく気を遣っていた。それに夫婦そろって美食家で、世界のあちこちから到来する珍しい物には目がなかった。というしだいで、今回の献立は次のように決まった。
牛の尻尾のポタージュ、岩ホウボウの網焼き、茸をあしらったフィレ肉、イタリア風ラヴィオリ、ロシアの山ウズラ、トリュフのサラダ、オードブルにはキャビアとキルキス(※北海産の小魚)、さらに、プラリーヌ入りアイスクリーム、エメラルド色をした小粒のハンガリー産チーズ、それにケーキ類。ぶどう酒は、ボルドーの年代物をカラッフに入れて常置し、焼肉にはシャンベルタン、デザートには、シャンペンは平凡だということで、モーゼルの発泡酒にした。
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●サンドーズのことばに、はっと我にかえったクロードは、出されている山ウズラの肉片の中から腿肉を選んだ。樹脂の匂いに似た山ウズラの肉の香りが、部屋中にひろがっていた。
「どうだ、感じるか?」サンドーズは楽しそうに言った。「ロシアの森林を満喫しているみたいだろう」 しかしクロードは、ふたたび自分の夢想に戻っていた。
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●アンリエットとサンドーズは、もはや料理の賞味どころではない大混乱の中で、ただ茫然としていた。トリュフのサラダも、アイスクリームも、デザートも、すべてが、口論で高まる憤懣の中で、がつがつと何の感激もなく嚥み下されていた。シャンベルタンの銘酒も、モーゼル酒も、水みたいにがぶ飲みされていた。
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●そして夜会は、やっとのことで締めくくりにたどりついた。一同が食堂に戻ると、鹿狩り風景を赤い糸で刺繍したロシアのテーブルクロスの上に、お茶が出されていた。そして、明るい吊り燭台の下には、ブリオシュと砂糖菓子、ケーキ類を盛った皿、ウイスキー、ジン、キュンメル酒(※ドイツ産、クミンで味つけした酒)、キオス産のラキ酒(※アニス酒の一種)など、さまざまのリキュールが並んでいた。さらに、召使いがパンチもはこんできた。そしてテーブルを廻って、せわしなく客に欲しいものを聞いていた。その間、当家の主婦が、自分の前で湯気を上げているサモワールからお湯をティーポットに入れていた。しかしながら、この充足感、この目の楽しみ、この芳しい茶の香りも、一同の心をほぐすにはいたらなかった。
(第11章)